会長就任挨拶
本年1月から2年間,会長を務めることになりました総合研究大学院大学先導科学研究科の佐々木顕です。事務局は関西から関東に移り、幹事長は東京大学の中岡慎治さん、会計は東京理科大の江夏洋一さん、庶務は静岡大学の佐藤一憲さんにお願いすることになりました。これから2年間、数理生物学会のさらなる国際化、学会運営の効率化、そして会員間に化学反応を起こし研究をさらに発展させるような研究交流の機会の創出を目指して、微力ながら努力していきたいと思います。
数理生物学会のこれまでの発展は、歴代執行部のご尽力の上にはじめて可能になったものです。まずは、難波利幸前会長と佐々木徹幹事長を中心とする前執行部の皆様にお礼を申し上げたいと思います。特に難波前会長は、2014 年に大阪で開催された SMB(Society for Mathematical Biology) との合同大会の大会委員長に続いての学会会長を務められるなど、学会の運営に多大の貢献をされました。2014 年の合同大会は、日本側の主催するはじめての SMB との合同大会でしたが、アジア諸国のみなら ず、アメリカやヨーロッパからも多くの方が参加され、シンポジウムや講演の量質ともに充実したもので、参加者からの評価も高い大会でしたが、そのぶん準備は大変だったと思います。ご尽力に心から感謝いたします。また、2015 年の京都大会は山村則男大会長のもとで日中韓数理生物学コロキウムとの合同大会として開催され、2016 年の九大新キャンパスでの福岡大会は巌佐庸大会長のもと、海外から多数の招待講演者を招いた国際色豊かなものとなりました。これらの大会準備委員会の方々にも心より感謝したいと思います。
今年の大会は、高田壮則大会長を中心として札幌の北大キャンパスで開催される予定です。2018 年の年会は、再び SMB との合同大会となり、オーストラリアのシドニーで開催されます。主催国ではありませんが、環太平洋の数理生物学会ととして日本数理生物学会の役割は大きなものとなります。多くの会員の方の積極的な参加を期待しています。数理生物学会は、低額の会費のもとでスリムな学会運営を行ってきました。一時期財政状況の苦しい時期もありましたが、会員数の増加と会員整理、ニュースレターの効率化、年会の剰余金の寄付などによって、健全財政に転じ、現在ではむしろ適切な目的に対して繰越金の支出に努力しないといけないほどになっています。このような財政の健全化に伴い、学会事務の業務委託も徐々に進み、学会執行部の事務負担も少し軽減されてきていますが、前執行部との密接な引き継ぎのもとで、今後も学会運営 の効率化をさらに進めたいと思います。
日本数理生物学会では大久保賞と研究奨励賞という2つの賞を授与しています。研究奨励賞については、若手研究者の受賞をより強く指向する方向で細則が変更されていますので、学会として選考基準の明確化をすすめたいと思います。また SMB では他の賞の新設の関連で大久保賞の選考手順等の見直しも模索されているようですので、しっかり議論していきたいと思います。数理生物学会の前身である数理生物学懇談会が発足したのは 1989 年になります。この年はベルリンの壁が崩壊した年でしたが、個人的なことを申しますと、私は博士論文の執筆に没頭していた年でもありました。数理生物学会(の前身)の誕生から現在までが、ちょうど私の研究者としてのキャリアと重なっていることを思うと感慨深いものがあります。学生だったため、学会発足にむけての動きに疎かった当時の私は、これまで様々な分野の学会に打って出て活躍してきた日本の数理生物学者のベクトルが、学会の設立によって内向きに変わってしまうのではないかという一抹の不安も感じていました。しかしそれは杞憂に終わりました。学会としてまとまったことにより、海外の数理生物学会との協力共同が盛んになりましたし、日本国内でも数理生物学者の影響力が増加したと思います。特にここ 10 年ほどの大会の特徴として、若手が主催するシンポジウムにおいて、フィールドや実験の研究者を交えたものが急速に増えてきたと感じています。それに伴い、数理生物学会員がカバーする研究分野の多様性も増大しています。数理生物学会は、新風を積極的に取り込んで外向きに発散する生命力に溢れた学会に成長したのだと思います。
これまでの会長の方々が一致して述べられたことでもありますが、数理生物学会は若手が活躍し、若手が引っ張ってきた学会です。歴代執行部にひきつづき、私も、活動の中心を担っている若手会員がのびのびと活動できるような学会を目指したいと思っています。2年間の会員の皆様のご協力をお願いして,ご挨拶とさせていただきます。
2017 年 1 月
日本数理生物学会会長 佐々木 顕