会長就任挨拶
本年1月から2年間,会長を務めることになりました瀬野裕美です。まず,稲葉寿前会長と,前事務局の岩田繁英さん,中丸麻由子さん,大泉嶺さん,立木佑弥さん,会計監事の中岡慎二さんの学会運営への労に心から感謝いたします。私が会長を拝命することとなったこの2年間は,奇しくも,引き続く新型コロナ禍による災害下の2021年,望むらくはその災害からの復興の2022年となり,私たちが昨年に経験してきたことから考えても,前例にない対応や仕組みを学会として求められるかもしれません。それらも含めて,これから2年間の学会運営では,これまで培われてきたよき有様を損なうことなく,事務局と協力し,会員の皆さんからのご助力もいただきながら,務めてまいります。何卒よろしくお願いいたします。
新事務局は,幹事長を青山学院大学理工学部物理・数理学科中田行彦さんに,会計を神戸大学大学院システム情報学研究科國谷紀良さんに,幹事を同志社大学文化情報学部岩本真裕子さんと北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター大森亮介さんにお願いしました。前事務局の献身的な仕事により,今年から,会員情報の管理システムが大幅に変わります。クレジットカードでの会費支払いが可能になりますし,各会員自身で,自分の会員情報の更新ができるようにもなり,事務局の会員情報管理の負担軽減が期待されるところです。とはいえ,当面,会員の方々からのご不便の声もあるかもしれませんし,新しいシステムを慣らしていくための対応が新事務局にとって厄介な仕事になるのではないかと思われます。新事務局の皆さんには,最初から新しい仕事が待ち構えていたかのようでもありますが,管理・運用を進めながら,時間をかけてよりよい形に近づけていければいいのではないかと思っております。会員の皆さまにも,ご理解とご協力を何卒よろしくお願いいたします。
さて,この挨拶の文章を考える参考にと,過去の会長たちの挨拶文を改めて拝見しましたら,複数の方が,本学会の前身である数理生物学懇談会(1989年設立)の設立時の寺本英先生や三村昌泰先生の文章を引用されておられました。私も,あえて,数理生物学懇談会ニュースレター第1号に掲載されている「数理生物学懇談会へのお誘い」(1988年12月20日付け)の山口昌哉先生と寺本先生連名の文章の一部を引用をさせていただくことにします。「単に国内での交流だけでなく、国際的な情報交換や研究協力を能率よく推進するためにも、なにか連絡センターになるような組織を作ることが必要な時期に来ているように思えます。しかし、学問の性格上から考えても、ある程度ルーズな結び付きをもった組織であることが望ましいように思われますので、学会といった正式の形のものでなく、情報の連絡などのサービスを主としたグループとして、「数理生物懇談会」(数理生物学といっても、理論的モデルによる研究といった広い意味で考えてください)を発足させたいと思います」。数理生物学懇談会は2003年に発展的に解消され,今日まで続く日本数理生物学会へと続きながら,この「お誘い」の文章に述べられている役割を曲がりなりにも果たせる形にまで育ってきたと思います。もっとも,時代とともに,「国際的な情報交換や研究協力」への学会に求められるサポートやバックアップの質は変わってきています。近年,アジア圏各国で生まれてくる独創的な数理生物学の発展は力強く,今後,アジア圏で育ちつつある数理生物学の新しいネットワークに本学会も新しい寄与ができるなら喜ばしいと思います。また,「単に国内での交流だけ」への学会としてのサポートやバックアップとしてできることがまだあるようにも思います。国内の若手の皆さんの活動も多彩に広がっている印象があります。数理生物学懇談会の「サービスを主としたグループ」の主旨も尊重するような,国内外の関連グループや学会員による活動をサポート・バックアップする学会としての有様を再認識することが今大切なのかもしれません。学会員の皆さんからのご意見をいただきながら,考えていければと思います。
本学会主催の今後の年会については,2021年に宮崎大学,2022年に広島大学で開催する予定です。2020年の年会は,名古屋大学での開催準備が進められていましたが,新型コロナ禍により,やむなくオンラインによる開催になりました。それでも,同大会委員長の時田恵一郎さんをはじめとする実行委員会の皆さんのご苦労により,期待以上の盛会となったと思います。どのような形であれ,今後の年会や関連する学術集会での会員の皆さんの活動が本学会の活性の源であることは疑うべくもありません。目下の災害下にあって,多くの学術交流の機会が損なわれたことに閉塞感を抱いている会員の方も少なくないのではないかと思います。けれども,手紙こそが学術交流の手段であった古の宿学を想うと,夢のような現代です。どのような学術交流の形であれ,会員の皆さんの学問への憧憬が損なわれることなく,それぞれ活躍されることが,本学会の願いであり,会員の皆さんへの期待であることお伝えして,就任の挨拶を締めくくらせていただきます。
2021年 1月